『Confess―― 告白』
chibi (♀)
中庭で数を数えしゃがみこむ瞳子を見掛けた。
瞳子の囁く声が聞こえてきた。
その間もまだ瞳子は数を数えていた。
でももう限界と思った乃梨子は、「八十一」と数えていた瞳子の肩に手を触れていた。
「あ、ごめん。邪魔しちゃいけないかな、とも思ったんだけど。いつまで続くかわからなかったからつい。……で、何やってるの ? 」
さっき仏像のテレビを録画するからと急いで帰ったはずなのに、此処にいるはずのない乃梨子の声がしたから瞳子は驚いた。
「いいよ。テレビなんて」と乃梨子の声がした。
「それより瞳子の話の方が大事」と言われ、瞳子は恐る恐る乃梨子に触れていた。
「乃梨子! 乃梨子! 乃梨子! 乃梨子!」
乃梨子の名前を呼び続けながら瞳子が手を握りしめてきた。
この手を離してはいけないと心に誓いながら、乃梨子も負けずに手に力を込めた。
しゃがんでいた瞳子を立たせた時に……
「こんな所にいつまでもいると風邪ひくから帰ろうか」と乃梨子は瞳子に話し掛けていた。
「夜まで大叔母留守だけど家に来る ? 」と聞いてみた。
でも家には連絡するんだよと瞳子には伝えておいた。
こんな状態の瞳子をまっすぐ家に帰す訳にはいかないし、じっくりと瞳子の話を聞く為、自分の下宿先に連れて帰ることにした。
マリア様の像の前でお祈りをして銀杏並木をとぼとぼ二人で歩いていた。
瞳子が持っていた携帯を取り出し、家の人に乃梨子の家に行くと伝えていた。
夜遅くならない内に車を出して欲しいとも言っていた。
なんとか了解が得られたらしいので横にいた乃梨子もほっとした。
校門を出てバス停迄のんびり歩いていたら丁度バスが停車していた。
あと5 分程で発車するらしく、運良く乗る事が出来た。
一番後ろの席が空いていたので瞳子と座った。
程なくしてバスが発車した。
少し瞳子が寒そうにしていたから乃梨子は、瞳子の左手を掴み自分のコートのポケットに突っ込ませた。
「こうすると暖かいから……」
乃梨子の思わぬ行動に瞳子と乃梨子自身も顔が朱に染まってしまった。
特に何を話すともなくM 駅にバスが到着した。
そのまま改札を抜け電車に乗り、下宿先がある駅を目指した。
今日は乗り継ぎが良かったからいつも長く感じる道のりも苦にならなかった。
これも今、瞳子と一緒だからと乃梨子は言い聞かせていた。
車掌さんが乃梨子の降りる駅名を告げていた。
今日に限って駅は乗降客が多く、2人は急いで電車から降りた。
駅から下宿先に向かっている最中、何食べようかと話をしていた。
今、時刻は14 : 30 を差している。
お昼ご飯を食べるにはかなり遅い時刻だ。
好き嫌いや辛い物平気かと聞いたら大丈夫と言ってた。
確か……冷蔵庫の中には、麻婆豆腐の材料があったはず。
瞬時に乃梨子は冷蔵庫の中身を思い出していた。
ご飯も2人分余ってた。
「ねぇ、瞳子、お昼に麻婆豆腐なんてどう ? 」
瞳子は、乃梨子の提案に乗った。
「当然、乃梨子が作るのよね ? 」
「もちろん、でも瞳子も食器並べるくらいは手伝ってよね」
なんて話していたら乃梨子の住んでるマンションに着いたのだった。
菫子さんが居ないのに一応「ただいま」と告げた。
とりあえず、のどが渇いてたので冷蔵庫からコーラを注いで2人で飲んだ。
乃梨子は洗面所で手を洗い、台所に入り冷蔵庫の中を漁った。
小さい頃から母に料理を仕込まれていたので一通りは作れるのだ。
只、今日みたいに特定の誰かの為にと思って作ってなかったから緊張していた。
リビングにいた瞳子に「15分くらいで出来るから、その時に声掛けるね」と告げた。
トントントンと小気味いい音が台所から聞こえて麻婆豆腐が仕上がっていく……
きっちり15 分で出来上がり瞳子が食器を並べ2人揃って食卓に座った。
「では、いただきます」と手を揃えて食べ始めた。
乃梨子は出来栄えが心配で瞳子をちらちらと見つめていた。
見つめられていた瞳子は「美味しいですわよ、乃梨子」と呟き麻婆豆腐を食べていた。
安心して乃梨子も麻婆豆腐を食べ続けた。
食後のお茶にしようと乃梨子がいい、2人で紅茶を淹れていた。
今日、瞳子を家に呼んだのは瞳子の話を聞く為だから。
話し易いようにもっていくのも乃梨子の役目だし親友だから心配もする。
「紅薔薇さまが瞳子と一緒だったと、下駄箱ですれ違った生徒が私に教えてくれたのだけど何かあったの ? 」 と乃梨子がきり出した。
「祥子お姉さまと話す前に祐巳さまと話していたのですよ」と瞳子が呟いた。
少し祐巳さまと言い争いをしてしまってと瞳子が落ち込んでいた。
きっかけは少し前の事ですが、と瞳子がぼそぼそと話し始めた。
「クリスマスの時、ロザリオを祐巳さまから掛けていただこうとしたのを私が断ったの」
瞳子が薔薇の館でのクリスマスパーティーを抜け出した本当の理由を教えてくれた。
そして今回の生徒会役員選挙出馬。
なるほど全て祐巳さま絡みかと乃梨子は呟いた。
「祐巳さまとの事を祥子お姉さまに問い質していたのです」と瞳子は真相を教えてくれた。
「紅薔薇さまに問い質した理由は ? 」と乃梨子が確信を突いた質問をした。
それは……と言い辛そうにしていた瞳子が重い口を開いた。
「私が、松平の実娘ではないのです」とショッキングな内容だった。
言い終えた瞳子が今迄の苦しみを吐き出すように泣き出してしまった。
「たとえ、瞳子が松平の実娘でなくても瞳子は瞳子だから……」と乃梨子が耳元で囁いて瞳子をそっと抱きしめ乃梨子が瞳の涙を拭いながら唇を合わせたのだった。
瞳子とKISS をした。志摩子さんともまだなのに……
この事が志摩子さんに知れたら嫉妬されるかもと
乃梨子は事の重大さに今はまだ気付かなかった。
「また、今度遊びにおいで」と瞳子に話して、
少し落ち着いた瞳子を、陽も暮れ掛けた頃
乃梨子が家に送っていくことにした。
まだ離れたくないという気持ちが先走ってたけれども。
‥‥※‥‥
瞳子と KISS した翌週の月曜日のことだった。
志摩子さんと顔を合わせたら乃梨子が目を逸らしたのだった。
すかさず志摩子さんからの質問が飛んできた。
「ねぇ乃梨子、一昨日瞳子ちゃんと一緒に帰ったの ? 」
何でも帰りのバスの中に志摩子さんのクラスの人が居たらしく
乃梨子と瞳子が帰る所をたまたま見掛けたらしい。
乃梨子は、瞳子との KISS を思い出し顔が赤くなってしまい
早口でこう答えて誤魔化した。
「うん。一緒に帰ったよ」
「私だって本当は乃梨子と帰りたかったのに……」と
志摩子さんからの呟きが聞こえてきた。
「瞳子ちゃんと何かあった ? 」と志摩子さんに聞かれ乃梨子が答えられずにいたら志摩子さんが
不審に思ったらしく乃梨子を問い詰めた。
乃梨子は小声で「瞳子と KISS した」と観念したらしく答えていた。
乃梨子の手は握っても KISS はまだだったから、志摩子はショックのあまり呆然とその科白を聞いていた。
「乃梨子が瞳子ちゃんと……」
消毒変わりと呟いて志摩子さんが触れる程度の KISS をした。
乃梨子は、金魚のように口をパクパクとしていたのだった。
‥‥※‥‥
松平家瞳子付き運転手、竹尾さん ( 仮名 ) の嘆き……
それは、土曜日の夜の事でした。
遅くなるから車を出して欲しいと昼頃、瞳子お嬢様と
奥様が電話で話している声が聞こえてきたものですから
てっきり、瞳子お嬢様を車でお迎えに参上出来ると
思っていました。ところが瞳子お嬢様は
夕飯時に、二条 乃梨子さまというご学友の方と一緒に、歩いてお帰りになられたのです。
行き違いにならずに済みましたが、二条 乃梨子さまに
私は思わず嫉妬してしまいましたよ。
長年、瞳子お嬢様に仕えた身としては、お出迎えは私の役目と
信じていましたから。まさか歩いてお帰りになるとは
その時は思いつかなかったですから。
今思えば二条 乃梨子さまが、羨ましかったのですね。
今度は是非その役目は私、竹尾をお呼び下さいませ。
瞳子お嬢様。